牧師 の書斎より その11『鼻毛』
   
 

 居間にいて新聞を読んでいた娘に,こう言いながら見せてやろうと思いました。
「鼻毛の長さだけは若者には負けないよ。ほら!」
すると,新聞を見たままこっちを向かない娘が,やけに冷静な口調でこう言いました。
「それは加齢のために周期が長くなっただけだよ。」

「周期が長くなっただけ・・」「加齢・・」この医学的説明には,少々落ち込んだ私 でしたが,そういえば,子どもの頃の一ヶ月の長さは今の二十年分に相当するかのよ うでしたし,十代の頃の一年は,思えば今の五年ほどのようであったような気がいた します。確かに充実周期が今とは大きく違っていたからです。

そんなことを思っていると,ふと,あの使徒ペテロの語ったメッセージが心に浮かび ました。「この一時を見落としてはいけません。すなわち,主の御前では,一日は千 年のようであり,千年は一日のようです。」 この使徒ペテロのメッセージは,主の 御前に生きるとき,その人の人生の実質的長さは大きく変化する,人が主にあって生 きてゆくとき,その人の一日は,かつて主を無視していた日々のその千年分に匹敵す るということを熱く語っています。

 つまり,私たちが神さまから与えられているきょうという一日は,まるで一生のよ うな価値ある恵みであるというのです。そういえば内村鑑三という先生は,「一日一 生」という本を書いておられます。そうです。神さまは私たちに一生のような一日を 日々与えてくださっていることを私たちはもっと自覚すべきではないでしょうか。そ して,もっと感謝すべきではないでしょうか。この神さまから与えられている一生の ような一日一日をもっともっと大切に生きてゆかなければ・・そう私は思うのです。


牧師:北澤正明